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建築模型や実際の家作りまで可能性を秘めた建築業における3Dプリンターについて紹介します。
建築業での3Dプリンターの活用は、完成模型の製作が代表的なところです。CADデータを実際の立体造形物に実体化・可視化することで、躯体構造のチェックがしやすくなり、精度もあがります。従来はモニターに3D構造や形状を表示してクライアントに説明をしていましたが、3Dプリンターで実体化することで、構造や形状をさまざまな角度から確認でき、建築物への理解を深められます。最近では、模型ではなく実物大の建造物そのものを3Dプリンターで作るプロジェクトも動き出しています。建築業における具体的な導入事例を紹介します。
3Dプリンターは建設業界の「伝える」難しさを乗り越えるツールとして活用されることが増えています。
例えば、前田建設工業では、3Dプリンターで作成した模型を使って顧客とのコミュニケーションを円滑かつスムーズにすることに成功した企業の1つです。建設業界の顧客へのプレゼンの難しさは、その構造の複雑さにあるといわれています。前田建設工業が建築するビルや建物は、プレゼン時に顧客へ伝えなければならない情報量が一般の住宅建築とは比べ物になりません。そのため、ビルやマンション、空港、工場のチェック項目は、かなり多岐にわたります。
加えて、建物の構造や仕組みのみならず雰囲気など感覚的なこともできるだけ伝える必要があります。そんな時に、3Dプリンターを使った3次元の模型を使うことでより分かりやすく、確実にクライアントへ提案できるようになったといいます。
ここまで3Dプリンターについて説明してきましたが、やはり3Dプリンターの大きな魅力は「コンピューター上で作成したデータが再現できる」ということに限るのではないでしょうか。これが建築業界でも活躍できる大きなポイントです。細かい作業が重要となってくる建築業界での大きな需要になるのではないでしょうか。
一般的な物づくりというのは、部品と部品を組み合わせながら作っていきます。
しかし、3Dプリンターでは平面上に素材を映し出し、徐々に高さという立体感を出していきながら少しずつ形を作っていくという方法です。そのため、3Dプリンターの製造過程を見てみると、製品の断面図を見ているのと同じ状況で、徐々に積み重なりながら製品が出来上がっていくのが体感できるのです。
平面でしかわからなかった図面が、立体的にデータがわかりやすく、図面が読めないような人でもきちんと把握できるようになったのです。
今では、3Dプリンターを幅広く活用している建設会社が多くなってきています。2015年、大手建設会社「清水建設」が3Dプリンターで100kgにもおよぶ建築物の模型を製作して話題になりました。細かな部分にまできちんと作成されることから、一気に建築業界でも取り入れる会社が増えてきたのです。
そして、同じく大手ゼネコン会社の「大林組」は、2017年10月に建築物のセメント部材を作成する3Dプリンターを開発して話題ともなりました。そもそも、セメント部材を作成するには高度な技術が要しますが、3Dプリンターを使うことで様々な形のセメント部材が自由に作成できるようになったのです。このことから、大幅な効率化を図ることに成功したのです。
そんな3Dプリンターも、今では国外でも大きく活用され始めています。中国では、2015年の段階で3Dプリンターを利用して住宅が建築されました。また、ドバイでは2016年に3Dプリンターで建設されたオフィスビルまでも建築されたのです。
今の日本の現状では、建築基準法で定められた基準をクリアしていないため、中国やドバイのような建設は困難となります。しかし、この先3Dプリンターの技術が上がってくれば建築基準法もクリアされ、3Dプリンターで建設された様々な建築物が実現されるかもしれません。
今では建築業界でも大きな話題となっている3Dプリンターですが、建設用3Dプリンターを利用する際のメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。
まず、物づくりにおいて専門的な技術を要していなくても、3Dプリンターの使い方を知っていれば誰でも同じぐらいのレベルで物が作れるということがあります。
今現在、建築業界では人手不足が大きな懸念材料として世間を騒がしています。後継者不足もそうですが、何よりも新しい人材が建築業界に入ってこないというのが大きな問題点でもあります。しかし、建築基準法で定められた基準さえクリアすれば、この3Dプリンターで建設も可能となるかもしれないのです。
上記でも説明していますが、3Dプリンターの使い方さえ知っていれば建設可能となるからです。ということから、3Dプリンターは人件費の削減につながるのと同時に、建築業界での人手不足解消にも大きく役立つのではないかと思います。
建築業界の人材不足の解消も一つのメリットとして挙げられますが、建設の際の廃棄資材が削減されるのも大きなメリットと言えます。
3Dプリンターで物づくりを行う際、通常の建設方法とは違って素材を平面上に吹き付けていく方法を取りますので、廃棄資材が削減されるのは間違いありません。それと、3Dプリンターの材料として廃棄資材を活用する場合がありますから、3Dプリンターは環境に優れた製品であるのです。
3Dプリンターによる住宅を開発したあるアメリカの企業は、移動式3Dプリンターを使えば24時間以内に住宅を建設することが可能と明言しています。
しかも、一つの住宅を建設するのにかかる費用が、日本円にして約42万円程度で建設可能というのにも驚きです。ちなみに、そのアメリカの企業が3Dプリンターにより建設した住宅を公開したところ、アメリカでは住宅として販売するための必要とする条件も満たしていたそうです。
今後は、「台風や地震にも耐えらえる安全で強靭な3Dプリント技術で建設可能であることを証明するため、アメリカの最も厳しい住宅建設にかかる規制を満たす家を建設したい」と語っているそうです。日本ではまだ3Dプリンターによる住宅の建設は認められていませんが、アメリカでは3Dプリンター住宅が普通になるという日もそう遠くはないような気もします。
建設する際のコスト、建設する人材の技術力を考慮すれば、3Dプリンターでの建築は非常に便利というのはわかって頂けたかと思います。
しかし、建築規制が厳しい国での普及はまだまだ困難になるのは間違いないでしょう。ですので、とにかく安くて多くの住宅を建設したいような発展途上国の方が先に普及されるとも言われています。
といったように、前例があまりない建設法のため、法規制というものが大きく左右されるのは間違いありません。特に、構造体の耐震性についてはさらに法規制が関わってきます。まずは実績を積み重ね、3Dプリンターにより建設された住宅が日常的な自然現象にどれだけの抵抗力を持てるかというのがこれからの課題となりそうです。
今現在の3Dプリンターシステムでは、建物周辺に広い土地があり、尚且つ傾斜でないところというのが求められています。
ですので、アメリカのような土地が広くて、住宅の敷地も広く使っているような国ではすぐにでも実現可能と言えます。ただ、日本での実現となると、土地が広く使える郊外に限られてくるのは間違いないでしょう。
もちろん、現状は1対のアームがレールに沿って移動するシステムなのですが技術開発によって4本足で歩き回れるような形態になれば、傾斜地でも対応できそうですし、建物周辺に必要な広い土地も少なくて済みそうです。
ということから、3Dプリンターのシステム向上が、都市部での住宅建設可能に大きく左右されてくるのです。
まず、3Dプリンター建設の際の騒音に関してはどうなのでしょうか。
まず、従来のクレーンの運転音より小さければ何の問題もないので、その点に関してはクリアするのは間違いないかと思われます。
ただ、完成品に関しては首をかしげる場面に多く遭遇するかもしれません。素材に色をつけたり、表面のテクスチャを工夫することはできそうですが、偽物感に関しては目をつぶらなければならないでしょう。
外観はコンクリート製になるので問題はないと思います。ただ、鉄骨系の住宅メーカーがこれだけ受け入れられているわけですから、デザインや外観、耐久性がよくなれば大手住宅メーカーの建物とはほとんど差が無くなりそうなのです。となれば、大手住宅メーカーがローコストタイプ住宅として販売する日が訪れるかもしれません。
とはいえ、環境に優しいのは間違いありませんので、一日も早く建築基準法をクリアしてもらってたくさんの住宅が建つ日が近づけばいいかと思います。
フランスに拠点を置くスタートアップ 「XtreeE」が注目のプロジェクトを進めています。3Dプリンターによって大規模な建設物を建造している同社は、3Dプリンターを使用しパリ市内に歩道橋を建設すると発表。このプロジェクトは、XtreeEが開発した3Dプリンターの技術がどれほどのものかを検証する位置づけとなっており、コスト削減や納期短縮と、複雑な建築の両立を目指した建設業における新時代「インダストリー4.0」時代へ向けた取り組みの一環です。
歩道橋という大掛かりな建設物に3Dプリンターを用いることで、狙えるポイントはいくつかあります。たとえば、歩道橋部品製作における工業的条件下での生産性向上です。そのほか、現場で建築物を組み立てる際、より迅速化させるためのリードタイム削減や、3Dプリンター使用によりコンクリート使用の必要がなくなるため、輸送・型枠・消費材料などのコスト削減実現が狙えるでしょう。
参考[1]:XtreeE公式HP[英語](2020/10/14)
3Dプリンターを使用した建設は民間だけでなく、官公庁でも試みられている取り組みです。例として、宮内庁ではかつて江戸城に存在し、現在は消失している「天守閣」の復元模型を、江戸城の本丸跡に設立された皇居東御苑で公開しています。この復元模型の製作に当たって一部分に使用されたのが、3Dプリンターです。
江戸城の天守閣は時期によっていくつかのタイプがあり、宮内庁によれば江戸時代初期だけでも3回作られているとされています。今回復元された天守閣は、400年ほど前、江戸時代寛永期に築かれたものです。この時代の天守閣がチョイスされた理由としては、外観や構造などが記された資料が多く残されており、製作がしやすかったという側面が大きいとのこと。現在公開されている天守閣の復元模型はサイズは実際のものより縮小されており、30分の1のサイズとなっています。しかしそれでも約2メートルの高さがあり、迫力のある建造物です。宮内庁によれば、3Dプリンターは屋根のしゃちほこなどの一部分に使用されています。3Dプリンターの高精度さを活かしたことによって、金具など細部に渡った部分までが精工に再現されているのが特徴です。ちなみに、このプロジェクトは政府の観光施策の一環となっており、約5千万円の製作費が投じられました。
2015年に中国の建設会社であるWinSun社が、3Dプリンターで作られた住宅を公開しました。昨年には、10戸の個人用住宅を24時間で3Dプリントするという活動を行い、世界中で話題になりました。シンプルな一戸建てや、3階建ての住居で、1000平米以上の豪邸や、5階建てのアパートなど様々な種類があります。
グラスファイバーを用いていたり、リサイクルセメントを原料としていたりするということで強度も確保でき、なおかつ地球にも優しい素材です。壁面のパーツを組み立てて建築することで、建築に掛かる時間やコストを大幅に短縮できています。
2017年2月、ロシアの首都モスクワで、初めて「施工日数わずか1日」の3Dプリントでできた家が完成しました。3Dプリンターで部品や模型が作れるのは周知の事実ですが、たった1日(24時間)で、38m2と小さいとはいえ、家まで建築できるようになりました。
その家は、「家を購入できない方々に安い家を提供したい」とロシアの企業「アピスコア」が開発した建築用3Dプリンターで製作されています。38m2の1ルームで、建築費用はわずか115万円と、従来の家に比べるとかなりコストが抑えられています。
素材はコンクリートでできていますが、鉄筋が入っていないため、日本国内では耐震強度の面で、やや不安な面もあります。ですが、地元ロシアでは、一般住宅としてだけではなく、災害時の仮設住宅として利用できるのではないかと期待されているそうです。これだけ簡単に家を作れてしまうのであれば、将来的には月や火星に家を建てることも、夢ではないのかもしれませんね。
オランダの南部に位置するアイントホーフェンでは、3Dプリンターで集合住宅を建設する取り組みが進められています。今までに世界で3Dプリンターの集合住宅を建設した記録はなく、新しいプロジェクトです。
プロジェクトを支援しているのは、市議会からアイントホーフェン工科大学、複数の建設会社。それぞれの建設技術と3Dプリンターのスキルを持ち合わせて建設しており、最初の1棟は2019年6月までに完成する予定とのこと。責任者のひとりは「現在は似たような形・大きさの建築物をつくっているが、今後3~5年でバリエーション豊かな集合住宅が建つ予定だ」と言います。
人口が急増し住宅が足りなくなる中、集合住宅が3Dプリンターで作られるようになれば建設期間の短縮・人材不足の解消に繋がり、住む家がないという人を減らせるでしょう。
日本建設会社が、2017年10月に建築物や土木構造の部材を3Dプリンターをプリンターで製作可能にしたと発表しました。
今まで日本の建設会社の3Dプリンターの利用方法は樹脂を模型を作る程度。3Dプリンターでは強度のある部品を製作するには時間がかかり過ぎるため、活用方法を模索していました。
建設会社は、材料を扱う会社と短時間で固まる独自のセメント材料を開発し、3Dプリンターに用いることで建設部材を製作できるようにしました。今後は3Dプリンターで製造可能な部材の種類をさらに増やし、扱える大きさを拡大しようと見込んでいます。3Dプリンターでさまざまな建設部材が作れるようになれば、工事の時間短縮が期待できます。
国内の清水建設株式会社では、3Dプリンターでフルカラーの3D建築単体模型を製作し、2016年に展示公開を行いました。石膏3Dプリンターで表現できる限界まで挑んだ精密かつ詳細なモデルは、総重量約100kg。建物一棟をまるまる1/40スケールで、すべて3Dプリンターで製作しています。3Dプリンターの可能性に挑戦し、今後も独自の技術で業界をリードしていく期待がもたれています。
清水建設の事例をもう一つご紹介します。清水建設は、3Dプリンターを用いて業務の改善を行っています。石膏系の3Dプリンターを用いることで月の平均造形数は増加し、生産性も向上しています。その分時間ができるので、メンテナンスの時間をとることができるため故障率は低下しました。
本社では3Dデータの作成・補正から3Dモデルの造形、サポート材の除去などの後処理まで全工程を内製化しています。社内には、3Dプリンターでつくられた造形物を見ることができる展示室があり社員のアイディア出しやブレストに使われています。3Dプリンターの利点としては、複雑な形状・デザインや構造を模型で立体視で見ることができること、短期間で作成でき、コストダウンを図れることなどがあります。
3Dプリンターの可能性に挑戦しようと、13年に竣工した「中央区立京橋こども園」の40分の1スケールの建築模型を、武藤工業の協力を得て製作した際には、フルカラー石こう系3Dプリンターで製作した建築単体模型としては世界でも大きいサイズです。
土木構造物にも3Dプリンターは積極的に活用されており、「東西線飯田橋・九段下間折返し設備設置飯田橋工区改良土木工事」や「千五沢ダム改築」など、3Dモデルを造形されています。
イギリスの大学の研究チームにより、3Dプリンターを使ってコンクリートをプリントし、さまざまな建築資材を作りだす研究が進んでいます。この技術が実現すれば従来の工法では難しかった複雑な形状の資材も出力することが可能なうえ、短時間で製作できるようになります。
3Dプリンターでジェット機の部品を製作している会社GEが、巨大な3Dプリンターによって「20時間で一軒家を建てる」プロジェクトを実現しています。今まで手作業で行っていることを全てオート化し、レイヤーを重ねてパーツを作成。新しい技術と伝統的な建築法を融合させることで十分な強度のある家を目指しているそう。まだ巨大3Dプリンターは開発段階ですが、今後プロジェクトが実現すれば安価な素材を使って短時間で家を作ることができ、災害時の住宅作りや発展途上国の居住問題解決に大いに役立ちます。
建築業での3Dプリンター活用は世界的にも経済・労働力・環境改善につながる大きな可能性を秘めています。現在実用化されているのは模型作成や建築物見本、プレゼンテーションへの活用がほとんどですが、今後建造物自体を建設するのに3Dプリンターを活用するプロジェクトが増えていくことは確実です。海中施設や月面基地などにも3Dプリンター技術を用いることで発展を目指すプロジェクトもあるそうで、ますます可能性が広がります。
近年、製造品の多様化に伴い、3Dプリンターに求められる機能性においても、性能が重視されることがポイントとなってきています。
ここでは、500万円未満のミドルクラスでありながら、高精細、高強度、短納期で造形できる3Dプリンターをそれぞれ紹介します。各製品の特徴に加えてショールーム情報もまとめました。
製品名 | 積層ピッチ | 最大造形サイズ (W×D×H) |
造形方式 | 材料などの特徴 |
---|---|---|---|---|
アジリスタ [キーエンス] |
0.015mm~ | 297mm×210mm×200mm | インクジェット方式 |
アジリスタは、国産の3Dプリンターでは数少ないインクジェット方式を採用し、積層ピッチ0.015mmの高精細造形を実現。水溶性のサポート材の為、細部までしっかりと造形でき、部品の組付けまでできる精度を誇ります。 使用可能な材料はUV硬化アクリル樹脂とシリコーンゴム。 樹脂はアクリルに少量のウレタンを配合し、靭性を持たせているため、ネジを締めても割れないことが特徴です。 |
Mark Two [Markforged] |
0.1mm~0.2mm | 350mm×132mmx154mm | 熱溶解積層方式+ 連続フィラメント方式 |
Mark Twoは、Markforged独自のカーボンファイバー連続繊維を使用できる方式が採用されています。 これは、造形物の内部にカーボンファイバーで骨組みを組成しながら形作っていく方式です。 これにより、高強度の造形が可能になり、製造工程で使う治具や工具、より強度が求められる部品の製造を行うことができます。 |
G-ZERO [グーデンベルグ] |
0.05〜0.250mm | 250mmx210mmx200mm | 熱溶解積層方式 |
G-ZEROは、最大500mm/sというスピーディな造形ができます。 短時間で造形が可能になり、生産性が向上します。 高速で動くヘッドの振動を抑える技術も搭載し、ハイスピードながら安定感のある造形ができます。 |
■選定条件
アジリスタ[キーエンス]……2023年7月19日、Googleで「3Dプリンター 高精細」と検索して表示された50万円以上500万円未満の製品のうち、インクジェット方式を採用し、積層ピッチが最小の製品として選出
Mark Two[Markforged]……2023年7月19日、Googleで「3Dプリンター 強度」と検索して表示された50万円以上500万円未満の製品のうち、カーボン素材を使用できるもので、唯一、熱溶解積層方式+連続フィラメント方式を採用している製品として選出
G-ZERO[グーテンベルク]……2023年7月19日、Googleで「3Dプリンター 高速」と検索して表示された50万円以上500万円未満の製品のうち、造形速度が最速の製品として選出しました。